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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)720号 判決

控訴人 石田春久商店有限会社

右代表者取締役 石田春久

被控訴人 株式会社神戸サンセンタープラザ

右代表者代表取締役 笹山幸俊

右訴訟代理人弁護士 奥村孝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加変更するほか原判決理由説示と同じであるからこれを引用する。

原判決三枚目表九行目「被告会社が」から同一〇、一一行の「そもそも」までを削除する。

同裏四行目「就任行為」の次に「ないしその前提としての株主総会決議」と挿入する。

同六行目から一一行目までを次のとおり改める。

「三 次に控訴人は、弁護士奥村孝の被控訴人会社監査役選任が商法二七六条違反であると主張するところ、同弁護士が被控訴人の顧問弁護士であることは当事者間に争いがなく、また同弁護士が本件訴訟において被控訴人の、即ちその業務執行機関たる代表取締役によつて選任された、訴訟代理人であることは記録上明らかであるほか、先に控訴人が被控訴人に対し提起した訴訟においても被控訴人の訴訟代理人であつたことは当裁判所に顕著な事実である(最高裁判所昭和六〇年(オ)第二二三号株券券種変更等請求事件、昭和六一年二月一八日第三小法廷判決、民集四〇巻一号三二頁)。

けれども、右のような立場にある弁護士は、一般に、独立した自己の職業として、会社等との契約に基き、訴訟行為等の法律事務を受任し、あるいは顧問弁護士として会社等の役職員らからの法律相談に応じ、法律専門家としての自己の判断と責任において、受任した事務を処理しあるいは法律上の意見を述べるものであつて、会社の業務自体を行うものではなく、もとより業務執行機関に対し継続的従属的関係にある使用人の地位につくものでもないから、このような弁護士が会社の監査役に就任した場合においても、同人がその会社の組織機構の一員となり業務執行機関の指揮命令を受けるべき立場におかれるに至つた場合、もしくはこれに準じてその会社に専属すべき拘束を受けている場合などの、特段の事情のない限り、右就任の事実だけから、直ちに商法二七六条に違反するということはできないと解するのが相当である。本件においては、弁論の全趣旨からして右のような特段の事情のないことが認められるので、この点に関する控訴人の主張は失当である。」

二  よつて本訴請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却する

(裁判長裁判官 小木曾競 裁判官 富澤達 下司正明)

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